2003年1月12日日曜日

Le Monde : 今日に於いては、金持ちを優遇せねばならない

2003.1.12
ヨーロッパ・モデルとアメリカ・モデルを、架空の手紙のやりとりで解説しています。けっこう面白い。アメリカ・モデルは経済的には成功するかも知れないが、中流階級を分裂させることで社会を不安定化に繋がり、民主主義の観点からは受け入れられないとい言うもの。でもこれを読んで、日本の反グローバリストが元気づけられても困ります。日本の経済的蓄積と民主主義はまだまだ一周遅れなのですから、ヨーロッパの立場からの対米批判をそのまま借りることは出来ないと思います。

par Eric Le Boucher
Aujourd'hui, il faut aider les riches
CHRONIQUE DE L'ÉCONOMIE (2003.1.12)

今日に於いては、金持ちを優遇せねばならない
ルモンド解説記事


きのう、ワシントン政府に勤める友人のエコノミストからこんな手紙を貰った。読んであげます。

「ヨーロッパ人は、いつになったら弱者や負傷者や貧者を恒に助けなければならないと言う、古くさい道徳を捨て去るのですか? いや、貴方が個人的にそういう人たちに同情や憐憫の気持ちを持つことは貴方の勝手ですが、公共政策としては、この費用がかかる傾向にある政策を打ち砕かねばなりません。近代経済に於いては、全く別の方法でその問題に対処しなければならないと言うことに、そろそろ気が付かれても良いのじゃないでしょうか。金持ちを優遇するのです! はい「金持ちを」です! 政府は彼等を支えて、彼等に気を配り、相当の所得税減税をしなければならないのです。効率と言うことを一度考えてください。今日に於いては、資本家階級こそが、投資をし、技術革新を行い、リスクを取り、経済成長を高めるの人たちなのです。そしてその結果もたらされる経済成長は力強いものであり、社会全体が、貧乏人も含めて、そのおこぼれに授かるのです。パンくずみたいな、金持ちの食べ残しにしか過ぎないとおっしゃるのですか? 現実的になりましょう。確かに「食べ残し」かも知れませんし、それについては誰も否定はしないのですが、その「食べ残し」は、現在ヨーロッパがしつこく維持しようとしている弱者救済政策により貧乏人が受け取る金額よりも大きいのです。何が何でも生活窮乏者を助けようと言う政策が、貧乏人を含めて全ての国民を豊かにするところの、力強い経済成長を妨げているのです。

弱体化するヨーロッパ


米国を見てください。ロナルド・レーガンによる所得税減税と「世襲財産」資本主義の採用が、保守革命を起こし、富の分配において歴史的な大変化をもたらしました。1930年代からの不平等を食い止めようとする政策が中止されたことで、その偏差の調整を見越した大ブームが起こったのです。はい。そうして、1980年代には、全ての側面で危機に直面していたこの国は、現在、ご存じのハイパーパワーとなったのです。ソ連のマルクス主義は死にました。計画主義の日本は非道く窮地に陥っています。社会民主主義のヨーロッパは停滞しています。米国は何千万もの新しい質の高い雇用を作りだし、失業をやっつけました。アメリカは研究開発に巨大な投資をし、先端技術の全てを抑え、地球上の最良の芸術家、スポーツマン、学者を独占しているのです。

貧困問題ですって? それについて話しましょう。貴方も同意いただけると思いますが、この問題の最良の解決方法は、補助金をばらまくことではなく、生産性の上昇を通じても雇用の増大と賃金の上昇なのです。これが米国で起こったことです。結果は、1990年には15%であった貧困層の比率が2001年には12%に低下しました。始めて黒人の失業率が10%を切りました。貧困問題とは、相対的な問題です。エコノミストのダニエル・コーヘンがルモンドにも寄稿したように、ヨーロッパの平均的富裕度は、一時米国との差を縮めましたが、この20年でまた再び差が開いています。別の言い方をすれば、政府の補助が受けられない米国人である方が、政府の補助を受けるヨーロッパ人より、よっぽど豊かだと言うことです・・・。

ブッシュの計画


納得しましたか? あなた達は、我々米国人のやり方に従う方が賢いです。米国はもっともっとこれを続けますから。ブッシュ大統領が発表した「雇用拡大」を目指す新計画で、アメリカは更に有利になります。ああ、言いたいことは分かります。アーバン研究所が言っている、ブッシュが今後10年で使う6470億ドルの内42%がアメリカ人の上位1%の最富裕層のために使われるということを仰りたいのでしょう。年に100万ドル以上の収入がある家計では32000ドルの得となるに対して、年収21000ドルの独身世帯では47ドルしか得にならないと言うことを仰りたいのでしょう。また、ブッシュ計画の目玉である配当金に対する課税全廃は、貯金を年金積み立てに回している普通の人たちにとっては何のメリットもないと仰りたいんでしょう。OK、OK。まさにその通りなのですが、このブッシュ計画は、株式相場の急落や戦争の可能性で不透明な経済状況の中で、投資家を元気づけるものなのです。我々はこの計画でもって投資と貯蓄を刺激するのです。過剰消費に陥っている米国経済にとって、これは今まで為されていなかったことで、必要なことなのです。簡単に言えば、この計画は経済を飛躍させ、ヨーロッパの経済成長率より高い1.5%と言う成長率を可能にするものなのです。やっと分かりましたか。先行している人間のやることをすごさを認めなさい。ヨーロッパの古くさい平等主義はヨーロッパの衰退をもたらします。」

民主主義

これに対して私は次のように返事を書いた:

「さあ、どうでしょうか。ブッシュ計画について一番事情に通じている人の反応を読む限り、この計画が成長率を高めるという目的を達成できるかどうかよく分かりません。もっと別の方法、企業や貯蓄に対する直接的な助成の方が良いように思えます。しかし結果は見てみないと分かりません。もっと基本的なことを指摘したいと思います。不平等は、基本的に技術革新によって牽引されている経済にとって、ダイナミズムの要素となりうるのでしょうか? それが米国がヨーロッパと距離を置く理由でしょうか? トム君、失業率は、ヨーロッパに於いてもスエーデンとかオランダなど、不平等主義を取らず逆に平等主義を取っている国で、アメリカ以上に改善を示しているのです。もっとも、アメリカの方が成長率が高いことは認めますし、アメリカ経済が現に力を取り戻した事実は、仰っていることを全く否定するわけにはいかなくしていることも認めます。これはまさに、われわれが平等とダイナミズムをヨーロッパ的なやり方で融合させようとして「ヨーロッパ・モデル」の再考を考えている目的(理由)でもあるわけです。我々は成金ではありません。成金とはかけ離れています。それは事実です。

しかし、あなた方の将来はそれほどバラ色だとは思いません。アメリカは新しい階級闘争を作り出しています。三つの階級、すなわち貧困層、中流層、スーパー富裕層です。問題は、富裕層がもっともっと豊かになると言うことではありません。貧困層の存在も新しいことではありません。問題は、中流層にあるのです。中流層は分裂を始めており、大多数の中流層は、資格形成の不足か個人的な自信の欠如のため消極的になっており、競争や彼等に押しつけられた不安定な状況を拒否するようになっています。将来に対する信念のおかげでアメリカはヨーロッパより長くこういうことを続けられるでしょう。しかしあなた方アメリカのモデルは不安定なのです。私は政治と民主主義について話しておるので、道徳のことを言っているのではありません。」

Eric Le Boucher

ARTICLE PARU DANS L'EDITION DU 12.01.03

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